「高齢だからという理由で賃貸の入居審査が通らなかった」という声は、残念ながら現在の賃貸市場で珍しくありません。少子高齢化が進む日本において、高齢者の住まい確保は社会的に重要な課題です。この記事では、賃貸不動産のプロとして、高齢者が入居審査で断られやすい背景・有効な対策・利用できる公的制度・高齢者向けの住まいの選択肢を詳しく解説します。
高齢者が賃貸審査で断られやすい理由
貸主(大家さん)が高齢者の入居に慎重になる理由は、主に以下の3つです。
**① 孤独死・死亡リスクへの懸念** 高齢者が自室で孤独死した場合、「心理的瑕疵(告知義務のある事故)」として次の入居者に告知が必要になる場合があります。また、死亡後に発見が遅れると部屋の原状回復費用が高額になりやすいという実態もあります。こうしたリスクを嫌う大家さんが多いのが現状です。
**② 経済的不安(年金収入への懸念)** 審査では安定した収入が重視されます。現役を退いた高齢者の収入源は主に年金となりますが、年金額が家賃の3〜4倍を下回るケースでは審査に通りにくくなります。特に国民年金のみの受給者(月額約6万〜7万円程度)は、一般的な賃貸物件の審査基準をクリアしにくい状況です。
**③ 連帯保証人・身元保証人の確保が困難** 高齢者の場合、親族の保証人が見つかりにくいケースがあります。また保証会社も、高齢者に対して審査を厳しくする場合があります。
入居審査を通過するための対策
**① 公的な高齢者向け支援制度を活用する** 国土交通省の「あんしん賃貸支援事業」など、高齢者の民間賃貸住宅への入居を支援する制度があります。また、各都道府県の住宅供給公社や市区町村が独自の支援事業を実施している場合があります。まず市区町村の住宅担当窓口に相談することをお勧めします。
**② 見守りサービスや死亡保険の加入で大家さんの不安を軽減する** 入居時に「見守りサービス」(毎日の生存確認や緊急通報システム)や「孤独死保険(少額短期保険)」への加入を提案することで、大家さんの不安を軽減できます。孤独死保険は月額500〜2,000円程度で加入できる商品もあり、高齢者の入居を促進するために普及が進んでいます。
**③ 家賃の支払い実績を示す** 過去の家賃支払い実績(通帳コピーなど)を提示することで、経済的な信頼性を示せます。また、家賃保証会社への加入に積極的に同意することも審査通過の助けになります。
**④ 子ども・親族を連絡先・緊急連絡先として明記する** 家族(子ども・兄弟など)の連絡先を明確に示し、何かあった際の対応者がいることを伝えることが、大家さんの不安を和らげます。子どもが連帯保証人になれる場合は、積極的に活用しましょう。
高齢者が利用できる住宅制度
**① サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)** バリアフリー構造を備え、生活相談や安否確認サービスが提供される賃貸住宅です。一般の賃貸と同様に賃貸借契約を結びますが、介護が必要になった場合でも住み続けやすい設計になっています。全国に約27万戸以上が供給されており、国土交通省・厚生労働省が共同所管しています。
**② 公営住宅(市営・県営・都営住宅)** 公営住宅は低所得者・高齢者・障害者を優先した入居者選定を行う自治体が多く、高齢者単身・高齢者夫婦向けの枠が設けられている場合があります。抽選倍率は高いものの、家賃が収入に応じた負担(応能家賃制度)であるため、年金収入でも無理なく支払える場合が多いです。
**③ シルバーハウジング(生活援助員派遣型公営住宅)** 公営住宅の一種で、緊急通報システムの設置や生活援助員(ライフサポートアドバイザー)による日常生活の相談対応が提供される住宅です。自治体によって供給状況が異なります。
**④ 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)に基づく登録住宅** 2017年の法改正により、高齢者・低所得者・外国人等の「住宅確保要配慮者」の入居を拒まないことを登録した民間賃貸住宅のリストが公開されています。各自治体の住宅担当窓口や「セーフティネット住宅情報提供システム」で検索できます。
社会全体で取り組む課題
高齢者の賃貸入居問題は、個人の努力だけで解決できない側面もあります。大家さんに対しては孤独死保険・見守りサービスの普及、行政に対しては公営住宅の供給増・民間への補助金制度の拡充が求められます。また、不動産業界全体として「高齢者だから断る」という慣習を見直し、高齢化社会に対応した住宅供給を進めることが急務です。
現在の住まいに不安を感じている高齢者の方は、まず市区町村の住宅相談窓口や社会福祉協議会に相談することをお勧めします。適切な制度や支援につないでもらえる可能性があります。