賃貸住宅を退去する際、敷金から予想以上の費用が差し引かれたり、クリーニング費用を別途請求されたりするトラブルは、賃貸住宅に関するトラブルの中でも特に多い事例のひとつです。しかし、適切な日常清掃と正しい退去前の対応を行うことで、こうしたトラブルのほとんどは未然に防ぐことが可能です。この記事では、賃貸不動産の専門家として、日々の掃除のポイントから退去時の清掃手順まで、詳しく解説します。
原状回復とは何か――借主の責任範囲を正しく理解する
退去時に求められる「原状回復」とは、入居者が部屋を借りる前の状態に戻すことを意味しますが、すべての損傷が借主の負担になるわけではありません。国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、経年劣化や通常使用による消耗(壁紙の日焼け、畳の自然なすり減りなど)は貸主負担とされています。一方、借主の故意や不注意、清掃不足による汚れや損傷は借主負担となります。
具体的に借主負担となるケースは以下の通りです。
- ・タバコのヤニや臭いによる壁・天井の変色
- ・結露を放置したことによるカビや腐食
- ・ペットによる傷や臭い(ペット可物件でも修繕費用は借主負担のケースが多い)
- ・エアコンの内部汚れ(フィルターの定期清掃を怠った場合)
- ・台所・浴室の水垢やカビ(定期的な清掃で防げるもの)
これらは日常的な清掃習慣で防げるものが多く、意識して生活することが最大の防衛策になります。
日常清掃で特に重点的に行うべき場所
賃貸住宅での日常清掃において、退去時の費用に直結しやすい場所を重点的に押さえておきましょう。
キッチン・コンロまわり
油汚れは時間が経つほど落ちにくくなります。調理後は毎回コンロの五徳や排気口周辺を軽く拭く習慣をつけましょう。月に一度は換気扇フィルターを洗浄し、油汚れが固着しないよう心がけてください。コンロ台の焦げ付きは重曹ペーストを使って定期的に落とすのが効果的です。
浴室・水回り
浴室は湿度が高くカビが発生しやすい場所です。入浴後は換気扇を30分以上回し、浴室全体に冷水を流して湿度を下げる「仕上げ流し」が効果的です。浴槽・洗い場・壁のタイルに水垢が付いた場合は、クエン酸水を使って週に一度こまめに落としましょう。排水口のヘアキャッチャーも週に一度は清掃し、詰まりを防いでください。
壁・天井
壁は意外と汚れが蓄積しやすい場所です。壁紙に手垢や汚れがついた場合は、消しゴムや薄めた中性洗剤を使って早めに対処しましょう。結露が発生しやすい窓周辺の壁紙は特に注意が必要で、結露が生じたらすぐに拭き取り、カビの発生を防いでください。
フローリング・床
フローリングのひっかき傷や黒ずみは借主負担になるケースがあります。家具の脚にはフェルトパッドを貼り、床への傷を防ぎましょう。こぼした飲み物や食べ物はすぐに拭き取り、シミをつくらないことが大切です。
退去前の清掃手順と優先順位
退去が決まったら、できるだけ早い段階から計画的に清掃を進めましょう。退去当日に慌てて行う清掃は不十分になりがちで、管理会社のチェックで多くの指摘を受けることになります。
退去前清掃の推奨順序は以下の通りです。
- ・天井・照明器具(ほこりや虫の死骸を除去)
- ・壁・壁紙(手垢・ヤニ・汚れを除去)
- ・窓・サッシ・網戸(水垢・汚れを除去)
- ・キッチン・コンロ・換気扇(油汚れを徹底的に除去)
- ・浴室・洗面台・トイレ(水垢・カビ・黒ずみを除去)
- ・床・フローリング(ほこり・汚れ・シミを除去)
- ・クローゼット・押し入れ内部(荷物を出した後に清掃)
特にエアコンのフィルターは自分で清掃したことを清掃会社やオーナーに伝えると印象が良くなります。エアコン内部のクリーニングは専門業者への依頼が必要ですが、フィルターの清掃は入居者自身で行えます。
入居時の状態確認が退去時トラブルを防ぐ
入居時に「入居前からすでにあった傷や汚れ」を記録しておくことは、退去時トラブルを防ぐうえで非常に重要です。入居時には必ず不動産会社から「現状確認書(入居チェックシート)」を受け取り、室内を隅々まで確認して既存の傷や汚れをすべて記入・提出しましょう。
写真での記録も効果的です。入居当日に全部屋を隅から隅まで撮影し、日付入りで保存しておくことで、退去時に「もともとあった傷か、入居中についた傷か」を証明することができます。現状確認書への記載漏れがあると、入居前からあった傷でも借主負担として請求されるトラブルが起こり得ます。
退去時のチェックポイントと立会い対応
退去時は管理会社または大家さんが立会い確認(退去査定)を行います。この立会い時の対応がとても重要です。
立会い前日までに清掃を完了させる
立会い当日に慌てて掃除するのではなく、前日までに清掃を済ませて落ち着いた状態で立会いに臨みましょう。
入居時の現状確認書と写真を持参する
入居時に記録した書類と写真を持参し、もともとあった傷や汚れについては明確に主張できるよう準備しましょう。
不明な請求には納得いくまで確認する
修繕費用の請求があった場合、「何の費用か」「面積・単価の根拠は何か」を必ず確認しましょう。根拠が不明確な場合は支払いを保留し、国土交通省のガイドラインや消費生活センターに相談する権利があります。
日頃から丁寧に生活し、清掃習慣を維持することが、退去時の余計な出費を防ぐ最善策です。すむいえでは、退去・原状回復に関する情報も継続的に発信していきますので、ぜひ参考にしてください。