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賃貸契約の重要事項説明書(35条書面)と契約書(37条書面)の違い——特約条項の適法性を判例から判定する実務ガイド

2026-11-08

宅建業法35条の重要事項説明書と37条書面の役割の違い、特約条項が有効か無効かを見分ける実務上の判断基準を、判例の考え方に沿って解説する。

賃貸契約の重要事項説明書(35条書面)と契約書(37条書面)の違い——特約条項の適法性を判例から判定する実務ガイド
#重要事項説明書#特約条項#賃貸契約#宅建業法#消費者契約法
森

監修: 森 信幸エムアセッツ株式会社 代表取締役 / 宅地建物取引士(宮城県 第018212号)

目次

  1. 01「重要事項説明書」と「契約書」は法律上まったく別の書面
  2. 02重要事項説明書で見落としてはいけない記載事項
  3. 03特約条項の適法性を判定する4段階の枠組み
  4. 0437条書面(契約書)まわりで見落とされがちな実務上の注意点
  5. 05契約前に実践すべきチェックの流れ

「重要事項説明書」と「契約書」は法律上まったく別の書面

賃貸借契約を締結する場面で必ず登場する書類が、「重要事項説明書」と「契約書」の2種類です。見た目が似ているため同じ性格の書面と思われがちですが、根拠となる法律も役割も異なります。

宅地建物取引業法(以下、宅建業法)第35条は、宅地建物取引士が契約締結前に借主へ書面を交付し口頭で説明することを義務づけています。これが「重要事項説明書」、いわゆる35条書面です。その目的は、借主が契約するかどうかを判断するための十分な情報を事前に提供することにあります。物件の権利関係、法令上の制限、設備の有無、解約・違約金の条件など、契約の可否判断に影響するすべての重要情報をここで開示しなければなりません。

一方、同法第37条が定める「37条書面」は、契約が成立した後に交付する書面です。家賃・敷金・契約期間・特約事項など、当事者が最終的に合意した内容を書面化したもので、いわゆる「契約書」に相当します。35条書面が「判断のための情報提供」であるのに対し、37条書面は「合意内容の確定・記録」という役割を担います。

実務では、重要事項説明の内容と契約書の記載内容が食い違っているケースが散見されます。説明時には「費用なし」と口頭で言われたのに、契約書には費用負担条項が入っていた、というトラブルはその典型例です。両書面を必ず突き合わせて確認する習慣が、後日の紛争を防ぐ最初の一歩になります。

重要事項説明書で見落としてはいけない記載事項

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重要事項説明書には宅建業法施行規則が定める項目が網羅的に記載されます。なかでも以下の項目は、契約後のトラブルに直結しやすいため入念に確認してください。

  • •物件の権利関係:所有者情報、抵当権の設定状況。抵当権が設定されている物件は競売リスクがゼロではなく、競落後の賃貸借関係がどうなるかも念頭に置く必要があります。
  • •法令上の制限:用途地域や建築基準法上の制限。在宅ワークや事業利用を想定している場合、用途制限との矛盾がないかを確かめることが重要です。
  • •設備の状況:給排水・電気・ガスの整備状況、既存設備の故障・修繕の有無。入居後に「知らなかった」と言えなくなる部分です。
  • •契約解除・損害賠償:中途解約の条件と違約金の金額。退去時に突然高額な違約金を請求されるケースの多くは、この欄を読み飛ばしたことが原因です。

宅建業者が重要事項説明に不備・虚偽があった場合、行政処分の対象となるほか、民事上の損害賠償責任を問われる可能性もあります。疑問点はその場で宅建士に質問し、口頭で受けた回答も含めてメモに残しておくことを強くお勧めします。

特約条項の適法性を判定する4段階の枠組み

契約自由の原則により、当事者間で自由に特約を定めること自体は認められています。ところが、借地借家法などの強行規定に反する特約、あるいは消費者契約法第10条が定める「信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項」に該当する特約は、契約書に明記されていても無効となります。

判例が示した判断枠組みを整理すると、特約の適法性は次の4段階で検討できます。

  1. 強行規定違反がないか:借地借家法の強行規定(賃借人に不利な契約条項を無効とする規定)に反していないかを確認します。
  2. 消費者契約法10条違反がないか:消費者である借主の利益を一方的に害し、信義則に反すると評価されないかを検討します。
  3. 内容と金額が契約書上で具体的かつ明確に読み取れるか:最高裁は更新料特約・敷引特約について、その額や算定根拠が契約書上で一義的かつ具体的に読み取れることを有効性判断の要素に挙げています。
  4. 金額が社会通念上相当な範囲にとどまっているか:特段の事情なく高額に過ぎる場合は無効と判断されうると示されています。

更新料特約や敷引特約については、上記の要素を満たす限り消費者契約法10条に反しないとした最高裁の判断が確立しています。一方、通常使用による経年劣化・通常損耗の修繕費まで借主負担とする原状回復特約については、その内容が契約書上で具体的かつ明確に合意されていなければ、通常の負担を超える義務を課すものとして認められないとする判断が示されています。特約の「書いてある」と「有効に合意した」は別の話であることを押さえておく必要があります。

37条書面(契約書)まわりで見落とされがちな実務上の注意点

契約書(37条書面)に関しては、意外と誤解されている点がいくつかあります。

まず印紙税の扱いです。不動産の売買契約書は印紙税法上の課税文書に該当しますが、賃貸借契約書は原則として課税文書に該当しないため、収入印紙の貼付は不要です。「賃貸契約なのに印紙を求められた」という場面があれば、根拠を確認するとよいでしょう。

次に宅建士の記名です。35条書面(重要事項説明書)には宅建士の記名が必須であることは広く知られていますが、37条書面(契約書)にも宅建士の記名が義務づけられています。記名のない契約書は宅建業法上の要件を満たしていないため、受け取った際は確認する習慣をつけておくと安心です。

また、宅建業法第35条の2では、供託所等に関する説明(宅建業者が加入する保証協会や供託所の所在地など)を重要事項説明とあわせて行うことが定められています。宅建業者とトラブルになった場合の相談・請求窓口を知っておくために、この説明の内容も確認しておく価値があります。

契約前に実践すべきチェックの流れ

以上を踏まえ、賃貸契約を結ぶ前に実践したいチェックの流れを整理します。

まず、重要事項説明書と契約書の記載内容を並べて突き合わせてください。家賃・敷金・解約条件・特約の内容が一致しているかを確認するのが最優先です。

次に、特約条項のうち金銭負担に関わるもの——更新料・敷引・違約金・原状回復に関する特約など——を洗い出し、金額と算定根拠が数字で具体的に明記されているかを確認します。「実費相当」「別途協議」といった曖昧な表現のまま署名してしまうと、退去時に不利な解釈を押しつけられるリスクがあります。

さらに、宅建士による重要事項説明の際に疑問を感じた点はその場で質問し、口頭の回答もメモに残しておいてください。書面外の口頭説明は後日「言った・言わない」の問題になりやすく、記録がなければ立証が困難になります。

受け取った書面は、35条書面・37条書面・特約条項ページをそれぞれ別個のものとして識別できる状態で保管してください。入居中に設備故障や退去精算をめぐるトラブルが生じた場合、これらの書面が唯一の手がかりになります。特約条項は物件ごと・管理会社ごとに内容が大きく異なるため、テンプレート的な契約書であっても「特約欄だけは別物」という意識で読み込む姿勢が、借主自身の利益を守る最も確実な手段です。

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